「なぁ、覚えているか?」
ゴゴゴゴゴと地響きが響く中、軀は側にいる飛影に話しかける。
二人は移動要塞百足の外殻に立っていた。魔界の木々をへし折りながら進む百足はそれなりのスピードで走っている。本来であればバランスを取って立つ事も難しいのだが軀が小さな結界を張って衝撃を緩和しているおかげで止まっている時と同様に立つ事ができ、会話も問題なくすることができた。そんな場所で流れる景色を眺めていた二人だったが、軀の問いでようやく二人は顔を見あわせた。
「何をだ?」
「幽助と黄泉の会談を盗み聞きした時に話したことだ」
そう軀に言われ飛影は眉間にシワを寄せながら考える。が、軀の意図が分からず困惑した表情を浮かべた。
当時の軀はまだ顔に呪符を巻いており、公には姿を見せていなかった。
『ちょっと幽助がうらやましい』
あの時一番驚いた言葉。どんな表情でそんな事をいったのか、飛影が知る術はない。
ただ、声音なら今でも覚えている。
「フン、そんな昔の事覚えている訳ないだろう?」
「……そうか。オレは覚えているんだがな。お前がオレの事を『気に入った』と言うとは思ってもいなかったからな。嬉しかったよ」
そう言うと軀は小さく微笑んだ。
「っ! アレはお前が国を解散させるといったから面白い奴だと思ったまでで……」
まさかの答えにしどろもどろになりながら飛影は答える。
「なんだ、覚えてるじゃないか。相変わらず素直じゃないな」
しまったという飛影の顔を見ながら軀は楽しそうにくつくつと笑った。そうしてまた何か思いついたらしくニヤリと笑って再度飛影に尋ねる。
「今ならどうだ? オレが幽助と戦えばお前はどっちにつく?」
一瞬驚いた後、紅い瞳の視線が泳ぐ。
やがて飛影は沈黙したまま今度は軀をじっと睨んだ。そんな飛影を見て軀は肩を竦めた。
「どっちにもつかない……か。相変わらず分かりやすいヤツだな。まぁ、即答でオレを選んでいたらそれはそれでぶっ飛ばしていたところだったかな」
笑いながらそう言う軀に飛影は思わずそっぽを向いて舌打ちした。
なんでも見透かれてしまう。いつまでたっても敵わない相手。
ちらりと軀の方を見れば、目があってニコリと微笑まれた。
「でも迷うくらいにお前に近づけたのは嬉しいよ。ありがとう、飛影」
そんな事を恥ずかし気もなく言うのだから飛影からしたらたまったものではない。気づけば腕を掴んで身体を引き寄せて抱きしめていた。自分の腕の中におさまる体温はとても心地良い。
「……いきなりなんだよ?」
「幽助と戦うような事にはなるなよ?」
「面倒くさい事は嫌いだからそんな事はしないと思うぜ」
くすくすと笑いながら軀は飛影に身体を預けた。
「ところで、百足はどこにいくんだ?」
「とびきりの場所だ。もうすぐ着く」
「ふーん、言うようになったな。変な場所だったら怒るからな」
「……」
やがて見えるであろう景色を見た軀の反応を想像する。
きっと気にいるだろう。ずっとずっと焦がれていた景色なのだから。
今日みたいな日には最適だ。
「軀……」
自分の胸元にいる軀に飛影は囁く。
──ハッピーバースデイ。
一面の花畑で笑うお前を見ようじゃないか。
END


