たなごころ

 

 

「……どういうことだ?」
「起きたらこうなってた」

ベッドで半身起こした状態の飛影は目の前で馬乗りになっている軀に戸惑いながら声をかけた。

(……夢か?)

そう思わずにはいられなかった。飛影の目の前の軀は蜂蜜色の長い髪に火傷の跡もない少女の姿になっていたのだから──

      *

「……今日で三日目だな。まだ戻らないのか?」
「さっき棗が元に戻ったと連絡があったからそろそろ戻ると思うぜ?」

飛影の問いに少女は答えた。ベッドでゆったりと本を読みながら寛いでいる少女姿の軀。飛影は少し離れたソファーに腰掛けていた。

「それにしても若返りの酒なんてもの、お前が飲むとは思わなかったぜ」
「こんなに若返るとは思っていなかったんだ。孤光が飲め飲めうるさかったし。あとは乙女心というヤツだ」

最後は少し照れたように軀は言ったが、飛影に伝わるわけもなく。チラリと飛影の顔を見て軀はまた手元の本に視線を戻した。
軀がこの少女の姿になってから三日経つ。この姿になった原因は孤光がどこからか入手した若返りの酒を飲んだせいだった。一緒にその酒を飲んだ孤光と棗も子供姿になっており、ちょっとした事件になっている。酒の成分を調査したところ前世の実に似た成分が含まれており一時的に子供の姿まで若返るとというものだった。特に身体に害はないためこうして軀は大人しく自室で待機することになったのだ。しかし三日間も引きこもっていればさすがに飽きてくる。それに何より気になっていた事があった。

「飛影、お前はこの身体に興味はないのか?」

本を読んでいた軀から世間話をするかのようにそんな事を聞かれ飛影は驚いて目をパチクリとさせた。

「痴皇(ブタ)はオレをたいそう気に入っていたからな。男はみんなこういうのが好きなんだと思っていた」

ニコリと軀は微笑んだ。
さぁ、飛影はなんと答える? 暇つぶしにはちょうど良かった。

「今のお前は興味ない……」

しばらく考えこんでいた飛影からかえってきた言葉はそんな内容だった。
飛影らしい答え。そう思った内容だったが、それと同時にドス黒い感情が芽生える。

痴皇の相手をしていたようなお前には興味がない。そう言われたような気がした──

飛影としてはせいいっぱい紳士的な回答をしたつもりだった。
少女の軀に欲情する気などさらさらない。ただ落ち着かないし目のやり場に困るのだ。
意識を通じて視た少女の軀は冷たい目をして無表情だった。だが目の前の軀はどうだ。くるくると変わる表情は年相応で可愛らしい。ふいにみせる大人っぽい表情もだぶだぶのTシャツからチラリと覗く白い脚も愛おしくて──
だから驚いた。
自分の答えを聞いた少女がポロポロと涙をこぼすから。
傷つけるつもりなどなかったのに、目の前の少女は明らかに自分の発言で傷つき泣いていたのだ。
軀がいるベッドに近づき腰を下ろす。

「なぜ泣く?」

飛影が尋ねても頭を横にふるばかりで返事は返ってこなかった。
ごしごしと手で涙を拭って、ようやく少女が泣き止んだタイミングで飛影は口を開いた。

「手を出せ」
「?」

泣いた理由を問いただされると思っていた軀は潤んだ瞳のまま呆気にとられて左手を飛影に差し出した。

「違う、反対だ」
「反対って……」

言われるがまま今度は右手をだす。機械ではなくなっている生身の右手。
その手をそっと飛影が握ってきた。
重ね合わせた掌てのひら。ぎゅっと飛影が力をこめる。

「少し痛いぞ」

きつく握り締めてきた飛影に文句を言いつつもそのまま握り続ける。
暖かい体温、手の平のシワ。いつも以上に熱を感じるのはなぜだろう。
少女の身体だったからこそ感じることが出来る温かさがそこにはあった。
そうして黒い感情もするすると溶けていく。
手から伝わる熱で溶けていく──

「……飛影、ありがとう」

握っていた手をそっと自分の方に引き寄せて軀は飛影の手の甲にキスをした。
フンといいつつ少し照れている飛影を見て、軀は微笑んだ。
チラリとこちらを見てくる飛影と目があって。飛影と軀は顔を寄せあった。

ポンっ

一瞬白い煙に覆われて、飛影の目の前にはいつもの軀がいた。
何が起こったのか理解しきれてない飛影を見て、軀はクスクスと笑いだす。
このタイミングで少女から元の姿に戻るとはまったく予想外の展開だ。

「……残念だったな、飛影」

ニヤニヤと笑いながら軀が言えば、飛影もニヤリと笑う。

「そんなことないぜ?」

そう言って軀の唇を奪った。
二人の手は繋いだまま。
深く深く口づけた。

 

 

<<了>>

タイトルとURLをコピーしました