理由

お前はいつまでオレのそばにいる?

「軀、手合わせをしろ」
「めんどくさいからまた今度な」
人の部屋に勝手に入ってきたかと思ったら、いの一番にこれだ。
飛影はパトロールが少しでも暇になるとすぐ手合わせをしろと言ってくる。毎回毎回ボコボコにされるのに何が楽しいんだか…

少し前より戦いが苦痛ではなくなってきたが、オレは幽助や飛影、雷禅の旧友らのように戦闘を楽しむということが苦手だ。
ストレスの発散の場なのに楽しむとはなんなのか?
ただ、飛影との手合わせに関して言えば、誰にも邪魔されない時間を作ることが出来るので最近の楽しみでもあった。
が、最近は少しイライラする事も増えてきた。

こいつは戦えれば誰でもいいんじゃないか?

元三竦みという名目がある自分だからコイツはオレの側にいるだけで、そのうちいなくなる。そう思うとイライラする自分がいた。
飛影なんてただのガキじゃないか。
そりゃあ氷泪石には感謝してる。あれが無かったら、オレはまだやさぐれたままだったし、飛影を自分の配下にしようなんて事も考えなかった。
なんだ、オレは飛影じゃなくて氷泪石さえあればいいのか?
分からない分からない分からない。

「おい、軀」

再び声をかけられた時はふて寝モードを決め込んで無視してやった。
しばらくして飛影が部屋から出て行った。
ほら、戦わないと分かれば去っていくんだ。
鬱々とした思考に自分が嫌になってため息が出る。
「ガキなのはどっちだ…」
シャワーでも浴びて気分を変えようと、ベットから立ち上がる。ふと、ベット近くのサイドテーブルにある物に気づく。
黄色い花びらの花が一輪。
さっきまでこんなものは無かった。
ということは、持ってきた犯人は…

「くっくっ、仕方がない奴だなぁ。メンドクセーけど、手合わせしてやるか」
水を入れたグラスに黄色い花をいれると、部屋をでた。

 

お前がいつまでオレのそばにいるかは分からない。
それでも、こんな事をするお前に側にいて欲しいと思ってしまうんだ。

 
* * *

 

最近の軀は機嫌が悪い。
少し前はニヤリと笑いながら手合わせもしてくれていたが、最近は全て断られている。

オレが弱いのがいけないんだろうか?

元三竦み。
本気を出したらたぶん一瞬でミンチにされる実力差がいまだにある。
1000年以上生きてきたアイツにしてみたら、オレなんか本当に赤子同然なんだろう。どうやっても埋める事が出来ない事実。
それでも出来る限りアイツの近くに居たいと思ってしまうのは何故なのか。

人間界にいる奴らがニヤニヤしながらアレやコレを聞いてきたことを思い出し、思わず舌打ちをする。
『飛影にとって軀は本当に大事な存在なんですね』
大事である事は否定しない。でもニヤニヤ笑われながら言われるのがとても不快だった。人の気も知らないで勝手な事をいう連中だ。

軀の過去は自分だけが知っている。
その事実は自分が特別扱いされているという証拠でもあり、側にいていい理由だとも思っていた。
でも軀からしてみたら違うのかも知れない。単なる気まぐれ。長い長い時間を生きてきたアイツの暇つぶしだったのかもしれない。
百足へと戻る途中、見かけた花畑で花を1つ摘んだ。
軀に見せたらどういう反応をするだろうか?という興味が湧いたからだ。
結局上手く渡す事は出来ずに、テーブルに置いてきただけになってしまったが…
驚いているだろうか?
それとも呆れているだろうか?
飛影のクセにとボヤいているかも知れない。

こんなに誰かの事を気にする日がくるとは思ってもみなかった。人間界の奴らにからかわれるのも仕方がないか。

お前は嫌かもしれないが、オレはお前の側にいたい。

 
* * *

 

「よぉ、ここにいたか」
百足の物見台に軀が姿を現した。
「機嫌が悪いんじゃなかったのか?」
そう返すと、軀は少し笑いながら飛影に近づいてきた。
「誰かさんから花をもらったからな。少し機嫌が良くなった。手合わせしてやってもいいぜ?」
「……花は気に入ったのか?」
そう飛影に聞かれ、一瞬驚く軀。
「気に入って欲しかったのか?」
「……いちいちウルサイ奴だな」
プイッと飛影は視線をそらしてしまう。その顔は少し赤くなっていた。
「くくく、そんないちいち怒るなよ。本当にお前はガキだなぁ…」
必死に笑うの堪えながら軀は喋る。ひとしきり笑うとスッキリした顔で飛影の方を見てきた。
「なんだ!まだ何か言いたいのか?」
「花、ありがとな」
ふわりと微笑みながらそう言う軀に飛影は目が離せなかった。
そして次の瞬間、軀は飛影の唇をかすめるように唇に触れてきた。
一瞬の出来事。
軀は既にその場から立ち去ろうとしていた。
「礼だ。受け取っておけ」
そういうと手をひらひらさせながら、物見台から艦内の方に移動していった。
「フンっ、気まぐれな奴め。手合わせの件忘れてやがる」
そう呟いた飛影は顔を真っ赤にしてその場に立ちつくすのだった。

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