境界線

初めてアイツを見たときは本当にガキで驚いた。

移動要塞百足。パトロール隊の主力部隊として魔界を駆け巡っていたその要塞は、第2回魔界統一トーナメントを1週間後に控え進路を癌陀羅へと向けていた。大統領府から慰労と称して大量の酒が届けられたのは数日前の出来事で、連日食堂では飲み会騒ぎが続いていた。たいていの者は暇なパトロールの憂さ晴らしにと飲み会を楽しんでいた。が、漆黒の服に身を包んだ青年はそういった場が苦手だった。その日も酔っ払いに絡まれつつ食事を済ますと、要塞の一番奥にある元国王の部屋に向かっていた。

「飛影か。今日は手合わせはしないぜ?」
部屋に入るなり声をかけられる。軀はいつものようにベットでゆったりと寝転んでいた。
「トーナメント前なのにお気楽な奴だ。予選で負けても知らないぜ?」
「あいにくオレは前回の大会でベスト8だから予選無しで本戦確定してるんだよ。お前こそ自分の心配しとけよ」
そういうと、ベットの隅をポンポンと叩き飛影に座るよう促す。
促されるまま腰掛けた飛影を見ながら軀はニヤニヤしながら思い出したように話しだした。
「少し前まではここに座るのもソワソワしてたのにな。お前がここにきて5年近いか?初めて会った時はガキで驚いたが…、今はだいぶマシになったな」
「フン」
「お前は知らないかもしれないが、結構大変だったんだぜ?オレに稚児趣味があったとか下級兵士達に噂されるし… 奇淋には気が回らず申し訳ありませんでしたって謝られるし… でも、あっという間に筆頭戦士だからな。オレが目をつけただけはある」
「……ちごとはなんだ?」
「あぁ、知らないのかお前。もう少し本とか読んで学も身につけた方がいいぞ」
クスクス笑う軀を見て、あまりいい意味ではない事は飛影も分かった。

「さて、トーナメントだが今のお前ならベスト8は狙えると思うぜ。それより上は運次第といったところか…」
「フン、お前が本気を出さない大会で勝っても意味がない」
「オレが本気だしたら、殺す戦い方になるからな。お前や幽助、雷禅の旧友らが羨ましい」
ぼやく軀を呆れた様子で飛影は見ていた。あっけらかんと喋っているが実力差があるのは事実だ。強くなればなるほど、その実力差が嫌になる。
いつまでたっても届かない。
何百年後に必ず追いつけるという自信も正直なところ持てない。それほどの圧倒的な強さを目の前の妖怪は持っている。
「もし優勝したら何を願う?」
ふいに軀が飛影に尋ねた。
「めんどくさいパトロールを無くす」
ボソリと飛影は答えた。
「くく、お前らしいな。もしそうなったら、今度こそ百足は解散だな」
ひとしきり笑うと軀はスッとした表情で飛影を見る。
「それでお前ともお別れだ」

突然のその言葉に飛影は一瞬固まっていた。が、すぐに眉間にしわを寄せ軀を睨みつける。
「なぜそうなる?」
「もう国ではない。パトロールもしないのであれば、百足は解散。お前がここにいる理由もないだろ?」
ますます飛影の顔は不機嫌になり、妖気も乱れだす。
「本気で言ってるのか?」
「何怒ってるんだよ。お前がパトロール無くすって言ったんだろう?」
「オレの事をガキ扱いしてるが、お前も相当ガキだと思うぞ」
「は?お前、なにい……」
軀の抗議の声は飛影によって塞がれていた。
重なる唇と唇。何も言わせないという確固たる意志の感じるその口づけは目眩がするほど甘かった。
「これでも別れるとかいうなら好きにしろ。オレはそんなつもりで言ったわけじゃないからな」
ペロリと自分の唇を舐める飛影の姿に、軀は顔が熱くなるのを感じた。
「こんなのどこで覚えてきたんだよ」
「さぁな」
しれっと答えると、再び軀にキスをした。

ガキ扱いは今日でおしまいだ。

 

タイトルとURLをコピーしました