気がつけば視界に入ったのは見馴れた天蓋。オレは軀の寝台で寝ていた。
すくそばで軀も寝ている。
さっきの出来事は夢だったんだろうか。
起き上がってみるが、手に思ったように力が入らない。
どうやら夢ではないようだ。
オレが気を失っている間に軀が戻ってきて全て解決させたのだろう。自分の力不足に思わず舌打ちをする。
気がついたか?と、隣で横になっていた軀がダルそうに起き上がる。
「あのガキはなんだ?」
「あー、お前は見えたのか。大抵のやつはすぐぶっ倒れるんだけどな」
少し関心した風に軀がオレを見てくる。
「体が全然動かなかった。お前の部下にはあんな奴もいたのか?」
「部下ねぇ…。ちょっと違うな。アレは百足だ」
「!?」
「たまに出てくるんだよ。本体が」
あれが百足?本体?突然の内容で頭が混乱していた。そんなオレを軀はニヤニヤと見ていた。
「せっかくだから特別に教えてやるよ。あれは何百年前だったか… まだ三竦みと呼ばれる前で、雷禅としょっちゅう喧嘩していた頃だ。オレはちょっとしくじって死にかけていた。とりあえず、その辺の森で休んでいた。その時ばかりは遂に死ぬのかなんて思ったりもした。そうしたら、アイツが来た」
『ねぇ、大丈夫?』
『大丈夫じゃねぇ…』
『助けてあげようか?』
『助けなくていい、どっか行け』
『じゃあ、食べてもいい?』
『お前、そんなチビなのにオレのこと喰えるのかよ?』
『うん。でも、食べるならもう少し元気な状態がいいかな』
「気がついたら百足の中にいた。怪我は完治していた。当時の百足はだだっ広い空間と、医療ポットがあった程度だがな。再び姿を現したアイツは約束だからといってオレの妖気を喰っていきやがった。美味かったからまた食べにくる、百足は自由に使っていいといって消えた。それ以来の付き合いだ」
軀の話を聞いたものの、正直頭が話についていけなかった。そんなオレを見て軀がクスクスと笑う。
「まぁ、いきなり話されても分かんねぇよなぁ。どうやら元々は魔界の最下層が住処だったらしい。何かの拍子でコッチにきて戻れなくなったらしいぜ。で、餌を探していた時にオレを見つけた。百足は妖気を餌にする。腹に餌を飼いながら動いてるってわけだ。腹の中は一種の亜空間みたいなもんだから、妖怪達が住みやすいように日々改良されていく。シャワーが出来た時はどういう仕組みなんだと疑問だったが、その辺は百足自身も分からないらしいぜ」
「…今回初めて妖気を喰われたが…」
「あぁ、普段は小食だから気がつかねぇはずた。数十年に一度ガッツリ喰う時期がある。本体がウロウロするのはだいたいその時期だ」
突然ゴゴゴゴと地響きのような音がし、部屋全体が揺れだした。
「始まったみたいだな」
「何が?」
「脱皮だ」
今まで感じた事のないような揺れ方を百足はしていた。横揺れと縦揺れが同時に襲ってくる。平然としている軀を横目にオレはまだ力の入らない足で必死にバランスを取っていた。
「お前、だいぶ喰われたんだな。おかげで今回オレは殆ど喰われずに済んだ。喰われると2、3日は動くのが怠いからな。助かったぜ」
そう言うと軀がオレの体を支えた。悔しいが今は素直に支えられることにした。
1時間ほどで揺れはおさまった。その間に廊下の方から悲鳴のような叫び声が何度も聞こえたのは言うまでもない。
「いつも脱皮はオレだけ百足に残っているんだが…、こんなに大変な事になるとはな。今回は医療ポットが足りなさそうだ」
失笑混じりに軀がぼやいた。
「見てみろよ、今回も立派な抜け殻だぜ」
窓から見る景色にもう一つの百足がいた。半透明がかったその白い抜け殻は思わず魅入ってしまう美しさがあった。
「そういえば、百足の奴、お前のこと気に入ったみたいだったぜ?」
「今度は全部食べると脅されたがな」
小憎たらしい子どもの顔を思い出す。
「次は喧嘩するなよ?オレはお前も百足も大事だからな」
オレは百足と同列なのか?思わず軀を睨む。
「なんだよ。百足にヤキモチか?くくく、そういう子どもっぽいところ嫌いじゃないぜ? まぁ、実際お前の方がかなり年下か…」
「うるさい」
オレは軀の体を引き寄せ唇を重ねた。
ーー軀のこと、ずっと大好きでいてね。
頭の中でアイツの声が聞こえた気がした。
そんな事言われるまでもない。
オレはさらに深く口づけた。
そして心の中で何度も呟く。
大好きだ。
終


