リミット

飛影と1ヶ月ほど口を聞いてない。
というか、姿も見てない。一応百足にはいるみたいだが、打合せは欠席。オレの部屋にも来ない。奇淋や時雨は会っているようだからどうやらオレだけさけられているようだ。
今までもちょっとした事で喧嘩になってお互い口を利かなかった事はあるが今回のように百足にいるのに顔を合わせないという行動は初めてだ。
そんなわけで大統領府もオレ一人で行く羽目になった。
「あれ、今日は飛影いないの?」
孤光がいつもの調子で話しかけてくる。大統領府に来る時は大抵飛影が一緒だからそう聞いてくるのも仕方がない。
「いよいよ飽きられたかな」
「まっさかー、だってこないだの酒宴だって凄い熱い視線おくってたわよ。ねぇ」
少しだけ本音を混ぜて冗談っぽく言ったそれを孤光はないないと明るく否定した。その言葉を聞いて少し気持ちが楽になる。
「気になるなら本人に直接聞けば?百足にいるんでしょ」
棗がさらっと最もな事をいう。
「それが出来たら楽なんだけどな」
問い詰めるには日が空きすぎてしまった。どうしたものかと思案する。三竦みと呼ばれ恐れられていたのに随分としょうも無い事で悩むようになったもんだ。
うん、そうだな。そっちがそうくるならオレもオレらしくしようじゃないか。

***

パトロール任務から戻った飛影を待っていたのは時雨だった。だいぶゲッソリした表情で飛影を呼び止める。
「さっきから医務室に運び込まれてくる者が多すぎて敵わん。お主、さっさと闘技場にいってケリをつけてこい」
「なんの話だ?」
「お主がここ数週間、軀様と距離をとっているのは承知している。が、軀様が納得してないだろう?」
「……それと闘技場がなぜ関係する?」
「軀様が闘技場で荒れておられる。このままでは明日のパトロールにも支障がでる。百足内で軀様を止めれる可能性があるのはお主くらいだ。元筆頭の責任としてどうにかしてこい。骨は拾ってやる」
そう言うと時雨は医務室の方へ去っていく。飛影は複雑な表情をすると舌打ちをし、闘技場へ向かった。
闘技場についた飛影が一番最初に見たものは妖怪の山だった。辛うじて生きているようだ。そしてその奥に軀の姿が見える。
「ん、やっときたか。手合わせしてやるよ」
普段の手合わせの時より、少しギラギラした蒼い瞳。
声をかけようとした次の瞬間、軀に間をつめられる。容赦ない蹴りが飛んできたが飛影はそれをかろうじてかわし、軀と距離をとる。
「チッ、避けられたか。間合いとるの上手くなったんじゃないのか?」
「おい、話を聞け。突然何をしてるんだ?」
「話を聞け?オレをずっと無視していたのは誰だ!」
一瞬で詰められた間合い。ガードも間にあわず衝撃が襲う。
ドガアァァン。
盛大な破壊音が百足内に響きわたった。

***

ぐるぐると飛影の腹に包帯を巻く。軀に吹き飛ばされて百足の外まで吹っ飛んだ飛影だったが、すぐ追いかけてきた軀に拾われた。治療ポットは軀が憂さ晴らしに闘った妖怪で満員御礼だった為、軀の自室にて応急処置をすることになる。まだ意識が覚醒しきっていない飛影はボンヤリと軀がする処置を見ていた。
「なんでオレの事さけてたんだよ?」
ボソリと軀は話しだす。
「別にさけていたつもりは……」
「もう一発穴あけるか?」
ニッコリと笑いながら恐ろしい事をいう目の前の女に飛影は観念したようでふーっと一息つく。
「幽助の隣で笑ってるお前を見るのも悪くないと思った」
「は?言ってる意味が分からない」
それはまったく予想していなかった発言で、ここ数週間悩みに悩んでいた軀の思考をさらに混乱させた。幽助?笑う?なんの話を目の前の男はしているのか?

「……オレなんかより幽助みたいな奴の方がいいんじゃないのかと思った」

そこまで聞いて思い出す。少し前にあった酒宴を。大統領府で行われた統一トーナメントの打上げ。見知った顔ぶれだった事もあり、軀も飛影もそれなりに楽しんでいた。そして軀が孤光達と談笑していたところに酔っ払った幽助がやってきたのだ。すっかり出来上がっていた彼は孤光や棗に絡み、そのまま側にいた軀にも絡んだ。肩に腕を回された時はさすがに驚いたが、孤光や棗にもしていたし、何より軀に回してきた腕は孤光らにより早々に引き剥がされた。だからその出来事は軀にしてみたらそこまで印象に残っておらず、その後の幽助と孤光のやり取りの方が面白くて覚えてるくらい。でも目の前の男は違ったようだ。
「それでしばらく側にいなくても平気か試してみたんだが……」
飛影の手がさわりと軀の頬に触れ、髪に触れる。
「無理だった」
そう言うと少し強引に軀の頭を引き寄せ唇を重ねる。何度も何度も重なる唇に軀の表情も恍惚としてくる。ようやく唇が解放されたと思ったらひょいっと抱えられそのまま寝台に放り投げられるように運ばれた。軀がシーツの感触を味わう暇もなく低い声が耳元でする。
「他の奴に触らせたくない。覚悟しとけ」
「ん……」
赤と蒼の視線が交差する。一瞬だったが満足げに軀は微笑んだ。
「上等だ」
優しい愛撫とともに再び重なる唇からは甘い吐息が漏れていた。

甘い甘い口づけを。
お前はオレのものだから。

END

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