「飛影……」
ふわっと甘い香りとともに首に腕を回され抱きつかれる。
紅潮した頬、潤んだ青い瞳。そして艶やかな唇から少し甘えた声で名前を呼ばれ、思わず飛影は息をのむ。
それは滅多に見ることない姿で、いやむしろ初めて見る姿でーー
「飛影……」
再び名前を呼ばれ、頬にキスをされ飛影の意識は一瞬飛びかける。
が、ふと我にかえる。
この状況を考えろ。この周りの状況を!!
幽助がなんとも言えない猫顔で飛影達を見てる。
蔵馬は両手で目を覆っているが、隙間からバッチリ見ている。
桑原は口をあんぐりと開け固まっていた。
そう、ここは人間界。クリスマスパーティーと称して久しぶりに4人+αで幽助宅に集まっていたのだ。
「……貴様ら、軀に何を飲ませた?」
ふるふると震えながら怒気に満ちた声で飛影は尋ねた。
「これさね。アルコール3%!飲みやすくて女性にも人気!『ほろりよい白サワー味』!!」
張り切ってぼたんが解説し、酒の缶を飛影に見せた。白い缶は確かに女性が好きそうなデザインだ。
「これ、甘くて美味しいですよね。ジュースみたいな感じですよ〜」
ほんのり頬を染めニコニコと微笑んでる雪菜の手には幽助達が飲んでる強めの酎ハイの缶が握られている。どうやら桑原家でだいぶ鍛えられたらしい。
「ひえーいーー」
スリスリと頬を寄せてくる軀を邪険に扱うことも出来ず、でも周りの目も気になって飛影はだいぶ焦っていた。
そこに蔵馬が何か思い出したように手をポンと叩き話しだす。
「そういえば、黄泉に人間界のお酒を飲ませた時も悪酔してましたね。もっと度数が強いヤツでしたけど。長く魔界に住んでる者には人間界のアルコールは刺激的なのかもしれません」
「あー?そうなの?そういえば北神達にこっちの酒飲ませた時も面白いことになってたな。普段酒飲んだ時も面白くなる奴だけど、タコ踊り〜とかいって踊りだしてたからな」
カカカと笑いながら幽助も蔵馬の意見に同意する。
「魔界の酒は、こっち比べてだいぶ大味というかアルコールの精製の仕方が違いますからね。何度か飲んでるうちに慣れるかと」
「で、これはどうすれば治るんだ?」
軀に半分襲われてるような状態の飛影がドスを聞かせて蔵馬に聞く。
「え?酔いが覚めるまで待つしかありませんよ。酔っ払ってるだけですし。オレたち、あっちの方で飲んでるので飛影はのんびり楽しんでくださいね」
「!?!?」
「ほら、桑原くんいつまで固まってるんですか。向こうに行きますよ。あーー、幽助も写真撮らないっ!!ぼたんと螢子ちゃん、おつまみのお皿を向こうに運んでもらえます?」
テキパキと蔵馬が指示してあっという間に隣のリビングへ移動して宴会を再開させていた。
「扉閉めた方がいいですか?」
リビングと隣り合わせの和室に残された飛影にこそりと蔵馬が尋ねる。
「閉めんでいいっ!!」
そんなやり取りをして、飛影と軀は和室に残されたのだった。
*
「コエンマ様のところから拝借してきたワイン、飲みたい人手をあげてー」
ぼたんが陽気に声をかければ、
「ワインに合いそうなおつまみ、急いで用意するからちょっと待ってて!」
そう言って螢子もバタバタとキッチンへ向かう。
「お、いいね〜。グラスいくついる?ワイングラスは人数分ねぇーんだけど」
「手伝いますよ」
グラスの準備をする幽助と蔵馬。
「カーーっ!浦飯テメェ、ワインの味分かるのかよ?」
「私も少し頂きたいです」
「雪菜さぁんっ!!、オレも飲むぜっ」
桑原と雪菜がテーブルの上を片付けワインを飲むスペースを確保する。
そんな様子を少し離れたところから飛影は眺めて、小さくため息をつく。
悪酔していた軀はようやく落ち着き、飛影にしがみついたまま眠っている。ちょうど飛影の膝を枕にしていた。しがみついている腕を離そうと試みたものの、さすがは元三竦み。うんともすんとも言わなかったので諦めてそのまま寝かせることにしたのだ。
すぅすぅと眠る横顔はまだ顔が赤い。
「お前の方が楽しみにしてたのにな」
ぼそりと呟くが眠っている軀には聞こえない。
雪菜からの招待状を嬉しそうに見ては手土産を何にするかと悩んでいた。
行かないと言い張った飛影を道案内だけでいいからと強引に連れだし今回の幽助宅で開催しているクリスマスパーティーに参加したのだ。
それにも関わらず早々に酔っ払ってしまい今は眠っている。飛影が言うのもあれだが、付き合いに関しては本当に不器用な奴でーー
さらりと髪を撫でてやれば、口許を緩めてすり寄ってきた。
一体どんな夢をみているんだか……
そう思うと飛影も思わず口許が緩んだ。
*
「なんだかすごいレアなもの見ちゃったわ」
キッチンから戻ってきた螢子がテーブルに料理を置きながら小声で話す。
「あ?何が?」
「ん、幽助には内緒ー。飛影くんって軀さんにほんとベタ惚れなのね」
「うんうん。あたしも二人でいるとこ初めて見たけど、ほんとラブラブなんだねぇ」
ぼたんも話に乗ってくる。女子はこういう話題が大好きなのだ。
「そうなんですよ〜、兄さ……飛影さんは軀さんにベタ惚れなんですよ〜〜」
ニコニコとほろ酔い気味の雪菜も参加してくる。一瞬何か言いかけたが皆気づかない振りをしてあげた。なお桑原はトイレで不在である。
「もっと飛影から直接話を聞きたかったんですけどね。それはまたの機会にしましょう」
蔵馬も楽しそうだ。
「今度はいつになっかなー。飛影、誘ってもなかなかこねーから」
「また軀さん宛に招待状を私が作りますね。そうしたら兄さ……飛影さんきっとくるので」
雪菜ちゃん策士だねと皆が思ったのは言うまでもない。なお桑原はまだトイレで不在である。
そんなこんなでワイワイ盛り上がっていると、飛影が軀を抱えて側まで来ていた。
「そろそろ帰る。雪菜、軀を誘ってくれたのにこんな事になって悪かった」
「いえいえ。またご招待するのでぜひ二人で来てくださいね」
ニコニコと微笑みながらそういう雪菜は最強である。
「あ、飛影。これお土産にどうぞ」
ささっと蔵馬が何かが入ってる袋を渡した。
「フン。邪魔したな。またな」
そう言うと飛影はそのまま玄関へと向かい外へ出ると夜の闇へと消えていった。
「『またな』だってさ。飛影丸くなったな〜」
しみじみとそういう幽助に皆同意して頷くのだった。
*
「……んん?」
目が覚めたら見慣れた天井が見えた。
軀はむくりと起き上がる。なんだか頭が少しクラクラするし、喉も渇いてる。確か人間界のくりすますぱーてぃーとやらに行ったはずだったのに何故百足にいるのか?
シャワールームの方から水音がする。飛影が使っているんだろう。とりあえず、部屋着に着替えて寝台に横になった。
ふと、サイドテーブルにある袋が気になり軀は中身を見てみる。
あぁ、これは人間界でも見たヤツだ。
白い可愛らしい缶の飲み物。甘くて美味しかったのを覚えてる。雪菜から教わったのを思い出し、プルタブを開け一口飲む。
人間界で飲んだのより冷えてはいなかったが、甘くて美味しかった。
一口、また一口と飲んでいき……
シャワーから出た飛影が頭を抱えたのは言うまでもない。
「ひーえーいー」
人間界の時より呂律が回ってない軀が飛影に抱きつく。
「……酔っ払いの相手はせんぞ?」
「にゃにおー、よっぱらってないぞぉ」
どう見ても酔っ払いだ。酔っ払いなのだが……
潤んだ瞳、つややかな唇。
「飛影……?」
名前を呼ばれれば、ふわりと軀を抱きとめて。
優しく優しく口付けた。
そうして名残惜しそうに離れた唇が囁く。
「もう我慢しないからな」
戯れあう二人のそばには白いお酒の缶、そして小さな小さなクリスマスツリーが飾られていた。
おしまい。


